チェンジへの希望

From : ビル・トッテン

アメリカの新しい大統領が決まった。前回のような電子投票のトラブルも起こらず、また噂された暗殺もなく、オバマ上院議員アメリカ大統領に選出された。ブッシュとは対照的に、頭がよくて人を魅了する演説を行うオバマ氏は、変革を求めるアメリカ国民にとって期待の新大統領である。

しかし、オバマ氏が繰り返し叫んだ「変革」とは、一体どのようなものなのだろうか。選挙活動中におこなった国民を魅惑する演説や、オバマ当選に沸く熱狂的な人々の幸福感に水をさすようで申し訳ないが、「ブッシュやマケインよりはましかもしれない。ただしあまり期待はできない」と私は思う。

アフガニスタンに増派が必要という主張は軍事力に頼った政策であることに変わりはなく、軍産複合体から利益を得る者の発言としか思えない。親イスラエルロビー団体が主催する総会では親イスラエル派の発言をしているし、ウォール街からは誰よりも多く選挙資金を集めた。エネルギー政策についても、当初は沖合の油田開発に反対していたが途中から油田開発を認める可能性があると変わってきたし、太陽光、風力、地熱などの新エネルギー開発を推進としながらも、原子力発電を支持するという点でマケインと大差はない。

これらが、賢いオバマの作戦である。もし、すべて大統領になるためのリップサービスだったなら、いつも暗殺におびえながら任務にあたらなければならないであろう。

もし私がオバマ新大統領に助言ができるなら、アメリカだけでなく日本を含むあらゆる工業社会が真の意味での大きな変革期にあることを伝えたい。つまりこの工業文明、石油の時代が終焉にある、そしてわれわれは早くそれを認めなければいけないということだ。オバマ氏のようにカリスマ性のあるリーダーなら、国民にそれを訴えることは不可能ではないだろう。技術上の問題ではなく、人々が現実を理解し受け入れることが、変革の始まりになるからだ。

今、われわれは「有限の地球において、安くて豊富なエネルギーの時代が終わる」という事実を認めなければいけない。かつて、ユカタン半島に広がる熱帯雨林の中に高い文明を誇る都市国家があった。そのマヤ文明は、人口過密や環境破壊、干ばつ、そして資源枯渇といった現実を前にしても、それを認めることなく、他の都市国家から資源を奪ったり、人間を生贄にささげて神殿を作り続け、神が救ってくれるという姿勢を変えなかった。もちろんそのどれもが状況を好転させることなく、むしろ悪化させ、マヤ文明は崩壊した。現代のアメリカが、マヤ文明と同じ運命をたどると言っているのではない。しかし、かつて栄えた文明や帝国の国民は、誰も、衰退が始まる直前までその事実を認め変化への準備を始めることができなかった、ということだ。

オバマ氏の政策には期待できないかもしれない。しかし白人重鎮男性が一貫してリードしてきたアメリカが、アフリカ系アメリカ人を大統領に選出した。この大きな変化を考えると、文明社会の転換期という現実を受け入れるということも、不可能ではない気がする。